スタチン系コレステロール低下剤は多発性ニューロパシーを引き起こす


コレステロールは神経や精神の働きと密接に関係しています。脳や脊髄、それに体の隅々まで張り巡らされている神経は、神経線維でできています。その神経繊維は細胞膜がぐるぐる巻きになったもので、その構成要素としてコレステロールが必須だからです。

コレステロールの産生が鈍ると、脳や脊髄の神経細胞との複雑な神経信号のやり取り、信号を伝える神経線維の働きも鈍り、神経障害や精神機能の障害を招きやすくなると考えられています。

また、メバロン酸・ファネシル2リン酸の低下も、結果としてコエンザイムQの産生を鈍らせるなどして、細胞の活発な働きを阻害します。そのことからも、末梢神経だけでなく、中枢神経の機能、精神機能にも影響して、鬱病などになりやすくなると考えられるのです。

このことは、いくつもの疫学調査でも説明されています。例えばスタチン剤によると思われる末梢神経障害例が少なくとも15例報告されています。オーストラリアの研究者は、スタチンの剤の一つである「シンバスタチン」を使用した後に神経障害を生じた4例を報告しています。

また、デンマークで行われた166例の「多発性ニューロパシー」(神経障害の一種)についての調査では、さらにはっきりとした結果が出ています。症例1例につき神経障害のない対照者を25例ずつ選んで、それぞれにコレステロール低下剤を使用しているかどうか調べた研究があります。

症例全体の解析結果で見ると、スタチン系コレステロール低下剤使用者は多発性ニューロパシーに4.6倍かかりやすく、多発性ニューロパシーの各実例だけで比較すると、なんと16.1倍の危険度となりました。

これを使用期間別にみると、2年未満使用者は6.1倍、2年以上い症者は26.4倍となり、使用期間が長いほど危険度が高くなっていました。これは、疫学調査でいう用量-反応関係(容量を増やせば反応が起こりやすく、あるいは強い反応が起こること)があることを示しているため、そのほかの事実も考慮すれば因果関係が濃厚となります。

スタチン剤と神経障害の関係は、動物実験でも証明されています。イヌにロバスタチンをヒト容量の90倍(体表面積換算)を約1年間用いたところ、37%の犬に神経障害がみられ、30倍でも12%にある種の神経の変性が認められたという報告があります。神経の変性が認められなかった容量はヒト容量のたかだか10倍でした。個人差などを考えれば、ヒトでも神経の変性をきたすことがあって当然といえる結果でした。

こうした症例報告や疫学調査動物実験の結果が多くみられるようになってきたため、コレステロール低下剤と神経障害に関する医学論文もいくつか出るようになってきました。製薬会社の援助を受けていない医薬品情報誌の一つであるフランスの「プレスクリル」誌が、スタチン剤による末梢神経障害の総解説記事を掲載しています。それを要約すると、
「我々の文献検索では、スタチン剤に関連した末梢神経障害を15例収集することができた。ニューロパシーは感覚神経性のものであり、自覚症状として主に異常知覚や下肢のしびれを訴え、腱反射が喪失(主にアキレス腱反射の喪失)することがある。また、ニューロパシーのため、明らかな筋力低下を伴うことがある。66歳で車椅子生活を余儀なくされた人もいる。これらの報告例を見る限り、使用料の上限を超えた例はなく、また肝臓や腎臓障害がもととなった例は含まれていない。年齢の中央値は50歳であった。障害発生までのスタチン剤試用期間は様々だったが、おおむね数か月ないし数年にわたる。中央地は2年であった。疑われたスタチン剤の使用を中止したところ、症状は多くの場合軽減したが、常に完全に回復するわけではない。スタチン剤の使用が再開された例はなかったが、ロバスタチンとの関連が疑われた例で再使用テストをしたところ、神経症状が悪化した例が報告されている。末梢神経障害の症状合を示して受診した患者には、スタチン剤が使用されていないかどうか聞き、もし使用されていたならば、スタチン剤は中止すべきである」

このようにこの医学論文では、もし末梢神経障害の症状があったら、スタチン剤を使用していないかどうか疑う必要があり、使用しているようなら中止すべきであることが強調されています。