帯状疱疹後神経痛を徹底解説

帯状疱疹の痛みは強く、また帯状疱疹後に引き続いて起こる神経痛はなかなか治りづらく、ペインクリニック科を受診する患者はかなりの数に上ります。帯状疱疹ヘルペスとも呼ばれ、ヘルペスウイルスの一つであり水痘を引き起こす水痘・帯状疱疹ウイルスによって引き起こされます。

ほとんどの人が小児期に水痘になりますが、それを引き起こしたウイルスは脊髄や三叉神経の神経節に潜んでしまいます。多くの人はこのまま一生を終えますが、全身の免疫力が落ちるとチャンスとばかりにウイルスが活発になり、帯状疱疹を引き起こします。高齢になると免疫力・抵抗力が低下するため帯状疱疹は高齢者によく発症します。また若い人でも、ストレスや過労時、癌などの全身疾患が合併している時などに起こることがあります。

帯状疱疹は湿疹と同時に痛みが起こりますが、通常は体の片側に起こります。このウイルスは三叉神経の神経節に潜んでいるため、脊髄神経や三叉神経が支配している部位によく生じます。特に、顔の額の部分(三叉神経の第一枝)と、胸のあたりに発症しやすく、神経に沿って帯状に湿疹が起こるため帯状疱疹と呼ばれています。

帯状疱疹が起こった場合の治療法は、病状の程度により異なりますが、基本は抗ウイルス薬の投与、痛みの治療、湿疹の治療です。現在、ヘルペスウイルスに効果がある薬が開発され(商品名ゾビラックス、アラセナAなど)、症状の緩和に役立っています。痛みが軽度の場合には通常の消炎鎮痛薬が投与されますが、これでも痛みがコントロールできない場合や高齢者には、積極的に神経ブロックを行います。また、帯状疱疹が重症の場合には入院し、全身的な治療が必要になります。

抗ウイルス薬が開発され、多くの帯状疱疹は重症にならずに治癒するようになりました。しかし、湿疹が消えた後も痛みが長い間持続する帯状疱疹後神経痛になる患者は減っていません。実際、抗ウイルス薬が帯状疱疹後神経痛の発症を防ぐという明らかなデータはないのです。

ペインクリニック科を受診する患者はいろいろな原因で痛みを訴えていますが、治りにくい痛みの代表として、まず帯状疱疹後神経痛があげられます。帯状疱疹にかかった患者の一部が帯状疱疹後神経痛になりますが、そのメカニズムははっきりわかっていません。神経は傷害されると治癒しようとする力がありますが、その際誤った過程で修復が行われたために帯状疱疹後神経痛が起こるのだろうと考えられています。そのため、ただ触れただけなのに脳に痛みとして伝えてしまうのです。帯状疱疹後神経痛の患者の多くは、湿疹があった部位の近くが低下したり麻痺していますが、触れただけで非常に痛むという不思議な状況が起こります。しかもこの痛みは弱くなることはなく、一生続く人も稀ではありません。

帯状疱疹後神経痛の治療法は、神経ブロックと薬物療法が主体となります。湿疹が治ってからまだ日が浅い場合には積極的に神経ブロックが行われます。顔面や頸部では星状神経節ブロックが行われ、ほかの部位では硬膜外ブロックが行われます。神経ブロックが無効であったり、かなり時間が経過している場合には、抗うつ薬(商品名トリプタノールなど)をや抗けいれん薬(商品名テグレトールなど)などの薬物療法が中心となり、低出力レーザーの照射なども行われます。

帯状疱疹後神経痛に対していろいろな治療法が行われていますが、なかなかよくならないのが現実です。いちばんの解決法は、帯状疱疹後神経痛にならないように予防することです。特に高齢者では、かなりの頻度で帯状疱疹から帯状疱疹後神経痛になるため、積極的な治療が必要になります。帯状疱疹にかかった際に、神経ブロックなどで積極的に痛みの治療を行い、痛みを感じる時間をできるだけ少なくすることが帯状疱疹後神経痛の発生を抑えると考えられています。

また、さらなる根本的解決法として水痘ワクチンがあります。1986年から、日本でも希望者に水痘ワクチンの摂取が行われ、現在、毎年約20万人が接種を受けています。水痘ワクチンの接種者は帯状疱疹になりにくいことが確認されています。つまり帯状疱疹の発生をワクチンで防げば、当然、帯状疱疹後神経痛は減ることになります。水痘ワクチンは、ほかのワクチンでよく診られるような発熱、発疹などの副作用はほとんどありませんので、今後さらに多くの小児が予防接種を受けることを望みます。