髄膜炎菌性髄膜炎(流行性髄膜炎)

                           
 1 臨床的特徴

 1.症状 発熱、激しい頭痛、嘔吐をもって突然発症し、項部硬直、ケルニヒ徴候など髄膜炎に共通の所見に加えて、大小の出血斑を見ることが特徴である。初期に一過性の丘疹性紅斑を見ることもある。電撃型を示す敗血症例では皮膚・粘膜に出血斑を伴ってショック症状と播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC)によって数時間で死亡してしまう(Waterhouse-Friderichsen症候群)、致命率は高く治療しても50%以上を示すこともあったが、近年早期診断治療によって10%以下となっている。髄膜炎症状に皮膚症状を随伴していれば臨床的に本症を疑う。

 髄膜炎菌感染症には、1)鼻咽頭炎あるいは無症状のもの、2)髄膜炎、3)出血斑を伴う敗血症があり、関節炎の合併もある。髄膜炎菌による菌血症の最も局在しやすい部位は髄膜である。化膿性髄膜炎の症状発現後8時間ころまでは髄液所見が正常範囲でありながら細菌培養陽性のことがあり、経時的に髄液所見を確認する必要がある。髄膜炎では皮膚症状一出血斑発疹など、ショック症状は敗血症ほど著明でない。劇症の敗血症は菌血症の最重症型で速やかに進行する。内毒素によるショック、 DIC、皮膚、粘膜出血が短時間で全身性に出現し致命率が高い。髄膜炎を合併することも少なくないが、髄液がほとんど正常のこともある。

 鑑別すべき疾患は劇症髄膜炎菌敗血症インフルエンザ菌、肺炎球菌、ブドウ球菌大腸菌などによる重症敗血症で、これらの場合にも発疹を伴うことがある。髄膜炎は他菌によるものとは分離菌による鑑別しかない。出血斑や皮疹とは細菌性心内膜炎、リケッチア症エンテロウイルス感染症と区別する。

 2. 病原体 髄膜炎菌Neisseria meninが航治。グラム陰性双球菌で腎型、対をなして白血球内に貪食された像が見られる。莢膜多糖体の型特異性に基づいて血清学的にA、 B、 C、 D群に分けられ、 W 135、 X、 Y、 Z群も見いだされている。髄膜炎は主にABC群菌によって起こる。D群菌はまれ。病原性の強弱は群によって異なる。すべて内毒素を産生する。

 3.検査 髄液の塗抹染色標本、血液、出血斑、穿刺液から定型的な髄膜炎菌の形態と白血球内への貪食像が認められればほぽ診断できる。髄液、血液、出血斑から培養によって本菌を検出する。本菌は寒冷、乾燥に弱いので、検体は37℃に保存し、保温したチョコレート培地などに接種する必要がある。迅速判断として、髄液、血清、濃縮尿についてカウンタ免疫電気泳動法(CIE)、ラテックス凝集反応(LA)、ブドウ球菌共同凝集反応(COA)などによって群特異多糖体を検出する。

  疫学的特徴

 1.発生状況 髄膜炎菌性髄膜炎は世界各地に散発性または流行性に発生し、温帯では寒い季節に、熱帯では暑い乾季に多発する。湿度低下による鼻咽腔粘膜の感染防御力の減退が関与するともいわれている。幼児期に多いが年長児や青壮年にも見られる。密集した住居環境への移住者が罹患しやすい。アフリカの流行は最も病原性の強いA群菌であり、その後もA群菌またはC群菌による流行が見られた。一般にB群菌は散発例に見いだされ、わが国でもB群菌によるものが多い。家族内感染も見られる。

 わが国では1945年(昭20)に4、384例、以後次第に減少して60年(昭35)には526例、69年以降100例を下回り、80年25例、90年には12例の届出があったに過ぎない。欧米では依然細菌性髄膜炎の三大原因菌の1つとして注目されており、警戒すべき疾患となっている。

 2.感染源 患者および保菌者でヒト以外からは分離されない。健康者の2~4%の鼻咽腔に保菌され、流行時にはその10倍にも及ぶという。保菌率が軍隊などで25%に達することがある。患者以上に保菌者が感染源として重視されている。

 3.伝播様式 鼻咽腔からの分泌物の飛沫による感染である。ただし、大部分は菌は間もなく消失して定着しない。定着すると保菌者になるか、一部全身感染症にまで至る。食器などを介しての間接接触による感染は菌が低温と乾燥に弱いので通常成り立たない。

 4.潜伏期 2~4日。ときに10日。

 5.伝染期間 菌が鼻咽腔分泌物から消失するまで、サルファ剤感受性菌ならば投薬の24時間以内に消失するがペニシリンでは残存する場合がある。

 6.ヒトの感受性 保菌率が高い割には患者は少なく加齢とともに感受性は低くなる。しかし、健康者を侵し免疫不全者に特に多いとは限らない。補体欠乏者では再発しやすい。

 Ⅲ 予防対策

 A 方針

 個人衛生に心掛け、閉鎖環境における密集した生活を避ける。わが国では入手できないが、米国などでは必要に応じて髄膜炎菌のA群、C群に加えてYおよびW-135群の多価ワクチンが成人、年長児に接種できることになっている。2歳以上の者に1回、3か月から2歳までの小児には2回接種する。特にサウジアラビアなど髄膜炎菌性髄膜炎の流行地に旅行滞在する者には予防接種が勧められており、米国では軍人に接種されている。

 B 防疫

 伝染病予防法に基づいて患者発生を届け出る。外国でも患者報告を義務づけている所が多い。隔離のうえ、至適抗菌薬療法が開始されれば24時間以内に感染源としての危険は除かれる。鼻汁、鼻咽頭分泌物およびこれらに汚染された器物、紙、患者、看護人の衣類・寝具・食器・書籍・ベッド・病室など伝染病予防法施行規則第25条に則って消毒する。保健所による疫学調査が行われる。

 患者と濃厚に接触していた家族、看護人、同居人に対しては初期症状(発熱)の監視体制を敷いて治療の遅れがないように努める。予防的化学療法としてサルファダイアジン(感性菌に限る)成人1.09、小児0.5g、 2回またはリファンピシン成人600mgZ回、1か月以上の小児10mg/kg/日分4、2日連続内服させる。成人ではセフトリアクソン250mg、小児では125mg 1回筋注が有効である。家族内感染があれば5日以内に発症してくる。近年サルファ剤耐性株が増加していることに留意する。 リファンピシンは除菌効果はあっても、耐性菌株の出現するおそれがあるので勧められない。

 C 流行時対策

 流行時には疫学調査、早期診断、早期治療に努める。閉鎖環境で過密状態で居住することを極力避ける。環境調整・換気に心掛ける。軍隊、炭鉱労働者、保育施設などで特に注意する。

 保菌率を低下させ感染を抑制するために集団的に予防的化学療法が勧められている。サルファ剤、リファンピシンの予防内服が前述の方式で試みられてきたが問題点も多く、濃厚接触者に限る方向にある。

 D 国際的対策

 WHOコラボレーティングセンターが当たる。

 E 治療方針

 ペニシリンが第一選択剤である。ペニシリンGまたはアンピシリンを分4非経口的投与する。

 著効を奏していたサルファ剤は耐性株が過半数を占めるに至ったので感受性を確認してから使用する。