イギリスでは転倒予防に注力

 

 

 脊椎椎体骨折は物を持ち上げたり、体の前後屈の動作により生じることが多いが、手や足の骨折の直接の原因としてはほとんどが転んだことによる。一般的に、背骨は骨の強さにおうじて折れにくくなり、カルシウム摂取量を増やしたり、運動をしたり、また治療薬を内服したりして骨密度が高くなれば、骨折頻度は減る。しかし、転んで生じる手や足の骨折を防ぐためには、骨密度を高くするか転倒を予防するかの二つの方法があり、両方すればより効果的ということになる。このことからイギリスのある大学病院では、高齢者の骨折を防ぐためには、高価な薬を服用させるよりも、転ばないように指導するほうが安価であるとの計算から、転倒予防に力を入れている。

 

 ところが日本では、転倒を考える抖は整形外科でもなければ内科でもない、といったぐあいに担当する専門抖がないために、転倒の予防は関心をもたれない領域であった。自治体の保健所や保健センターの住民への案内でも、肥満予防教室や乳がんを触診で発見する教室、また栄養教室、運動教室などはよく見かけるが、転倒予防を健康づくりの一つとして案内するところはまだわずがである。しかし、ロンドンだけでなく東京でも転倒予防クリニックを開設する動きがみられ、これがらの高齢社会では、家庭や道路上での事故の約四分の三を占める転倒を少なくする方策が、いろいろと練られることになろう。

 

 高齢者は若い人にくらべて転びやすい。老人ホームに人所している高齢者一四〇六人を一年間にわたってつぶさに観察した調杏では、六〇歳代の高齢者の10%、八〇歳代の高齢者の二〇%が、一回は転倒している。転んだとしても、七〇%の人たちは何ごともなく起き上がっているが、二〇%の人たちは大ケガをし、男性の九%が外傷を受け、女性の一〇%が骨折をしていた。したがって、高齢に女性では一〇回転ぶと一回は骨折し、そO転倒七八〇歳以上になると五年に一回の割合で経験するという計算にもなる。