高齢者が転びやすい理由

 

 

 高齢者がこのように転びやすいのは、体がつねに揺れていることによる。人は静がに立っているつもりでも重心はわずかに揺れているものであるが、高齢者は若年者にくらべて揺れの大きさが約二倍となり、目を閉じている高齢者は、目を閉じている若年者の三倍も人きく揺れている。しかも、どのていどの重心の揺れにまで耐えて、膝を曲げすに立っていられるかを調べた研究では、若年者では足底の前後の長さの六〇%ぐらいの範囲であれば、重心が前へ後ろへと移動してもふらつかないで立っていられる。しがし、高齢者では前後の長さの中央二〇%ぐらいにしか重心を移せる範囲がなく、それ以上前へ後ろへと重心が動くと、ふらついて転倒してしまう。このことから、高齢者は若年者にくらべて重心が二、二倍も揺れやすいのに、揺れにさからって安全に立っていられる範囲は足底の前後の長さで三分の一、面積に換算すると九分の一に狭くなっている。

 

 一方、高齢者に瞬時の判断を求めたさいには軽率でまちがった判断をしがちで、若年者のほうが冷静で慎重な判断をすることがわがっている。これらのことから、老人ホームの高齢者は、すべった、つまずいた、ふらついた、といったささいな原因で転んでしまい、若年者に多い階段がらの転落や障害物との衝突による転倒は、わずかである。