在日外国人向けの多言語による情報提供の現状と同化主義的政策について


北九州市は、文部科学省から「帰国・外国人児童生徒とともに進める教育の国際化推進地域」に指定されている全国23市町村のうちの一つです。推進地域内の外国人住民数は1万人を超えており、そのうち「日本語指導が必要な外国人児童生徒在籍数」は33名です。調査報告によると、在日外国人登録者数は1万1146人と増加傾向にあり、外国人市民の国籍は70か国を超えています。

国籍の多様さから、言語に関しても多様な状況が想像できます。北九州市外国籍市民に対する情報は、どれほど整備されているのでしょうか。例えば、外国籍市民向け多言語情報誌『Himawari』です。ルビ付きの日本語版に加え、英語版と中国語版も刊行されています。つまり、3つの言語で情報が提供されているのですが、同市のほかの情報媒体と比べると、これはまだ多いほうです。しかし、これは全国のほかの自治体と比べると少ない。自治体の多くは、少なくとも5つの言語による翻訳サービスを提供しているのです。東京や大阪といった大都市と比べるまでもなく、多言語による情報提供が大きく遅れているといわざるを得ません。

同市における1万人を超える在日外国人の大半は、JETプログラムによる招致者も含めた労働者、あるいは留学生として日本にやってきた人々です。北九州市教育委員会が刊行する『教育要覧』は、同市における外国人児童生徒の現状を示しています。

外国籍児童の全員が、「日本語指導が必要な外国人児童生徒」というわけはありません。なお、各自の母語については統計が行われていません。

実際、自治体や国際交流協会が主催となって、在日外国人児童生徒に対する日本語教育は行われているものの、母語保持を目的とした言語教育サービスは行われていないそうです。ウルドゥー語母語とするパキスタン人児童生徒についての、同市教育委員会に対するインタビューでは、「特殊言語については英語の翻訳を介して日本語を教えている」ということでした。こうした言語観は、ウルドゥー語を「特殊言語」と捉えること、媒介言語は英語であることを前提としていることが問題であると同時に、日本語の習得も前提としています。日本文化・日本社会への適応という名のもとに、少なくとも言語の面では同化主義的政策が行われているのです。

言語権とは、言語的側面における人間の平等を目指し、異なる言語の担い手の間に存在する言語の違いに基づいた社会的平等を是正しようとする試みです。国際人権規約をはじめ、世界言語圏宣言など、言語を人権の一部として位置づける文書は多いです。日本国内の事例に目を向けても、例えば川崎市などのように母語の重要性に対する認識を深め、積極的に取り組んでいる地域があります。

ところが、人権教育を推進し「あらゆる差別の解消」に取り組むと宣言しているにもかかわらず、市や国際交流協会などの団体では、外国籍市民・児童生徒に対して、母語教育は行われていません。その反面、社会的大言語である英語には力を注いでいます。市内すべての小学校で英語教育が開始され、英語指導助手をすべての小学校に配置する「小さな国際人育成事業」が行われています。また、中学校に対しては、「英語が話せる中学生育成事業」を施行しています。