骨粗鬆症による症状

 

 

腰が曲がり、背が低くなるのは骨吸収につづく骨形成によってなされる骨代謝は、全身の骨のいたるところでおこなわれているものの、年齢や体の状態により、その速度や吸収・形成の均衡が異なる。また、骨格の部位によっても、骨代謝回転の・速度や均衡が異なる。骨格重量の約ニ〇%しか占めていない海綿骨の表面積は、重量としては八〇%を占める皮質骨の面積の、約一〇倍にも達している。骨代謝回転の進みぐあいは表面積に比例することから、閉経後にまっ先に骨萎縮がはじまるのは海綿骨であり、しかも血流の多い躯幹中枢よりの海綿骨である胸椎・腰椎に、まず骨萎縮がはじまる。

 

 骨破断実験においても、皮質骨の代表としての脛骨では、二〇~三〇歳代にくらべて五〇歳代、七〇~八〇歳代では、それぞれ強度が約一二%低下しているだけであるが、海綿骨からできている腰椎の圧縮強度は、二〇~三〇朧代にくらべて四〇~五〇歳代、六〇~七〇歳代では、それぞれ約三五%、約五八%も低下している。このていどまで力学的強度が低下すると、転倒などのアクシデントがなくとも、物を持ち上げたり体をねじったさいに腰や背中に大きな圧迫力が加わるので、骨がつぶれてしまうことになる。このようにして、骨粗鬆症の患者さんでは身長が低くなり、背中や腰が丸くなるが、丸くなった背中を円背という。

 

 東京都養育院という高齢者福祉・医療の総合施設内に、老人ホームがある。その居住者は骨が弱いことがわがり、牛乳の飲用を推奨するため、安く牛乳が飲めるような自動販売機を設置した。これにより牛乳を飲む習慣を身につけたお年寄りは、四年間で平均2cm身長が縮んだだけであるが、牛乳を飲まながった同年代の女性(平均年齢七九歳)の身長は、四年間で平均4cmも縮んでいた。このことから、三分の二以上の女性が骨粗鬆症にががる八〇歳近くになると、何もしないでいると一年間に一cmの割合で身長が縮むことが明らがとなった。

 

 背中が丸くなるのは高齢者に特徴的な姿勢であるが、この多くを占めるゆるすがな腰曲がりは骨粗鬆症に由来し、極端な臍曲がりは腰椎の変性疾患に由来する、と考えられる。研究では、老人ホームの居住者のうち、八七人の女性について背中の曲がりぐあいが調べられた。その方法は、平均七八歳の女性に、壁近くに横向きに立ってもらい、頭のすぐ下の頭椎から骨盤の真うしろの仙骨下端までをなぞり、そのカリフを壁に貼った大きな白紙に写しとって、背中の曲がりぐあいを記載するものである。また同時に、健康診斷のさいに撮影された胸部レントゲン像を用いて、鎖骨中央部の骨幅にたいする皮質骨の厚さを測定し、これを骨萎縮の程度とした。その結果、骨が弱くなるにつれて円背の頂点が背中から腰のほうへと移っていくこと、また円背の頂点が腰のほうに移っていくとともに円背の曲がりぐあいが鋭くなることが判明した。この結果から、まず五〇~六〇歳代で軽度な骨粗鬆症にかかっ

ている状態では、背中の上のほうが軽く曲がる。このような円背は、貴婦人のコブなどといわれている。そして、骨萎縮が進行してくると、円背の頂点が下方に移動して臍が丸くなり、その曲がりぐあいも強くなる。ときおり、腰を中心に強く前かがみに曲がり、上体が水平になるような姿勢で歩く高齢者を見かけるが、これは腰椎椎体の変形だけでなく、下部腰椎に骨棘(異常な骨のトゲ)が生じたり、椎間板が変性して脊柱管に突出した結果であることが多い。このような脊柱管狭窄状態では、前屈位七歩くなどの動作により、腰から下肢にがけての閉塞感・こわばり・痛みが発生しにくくなることから、下部腰椎の構造変化と苦痛緩和のために、強い前屈位をとるものと考えられる。

 

 骨粗鬆症にともなって身長が縮むのは、胸椎・腰椎の圧迫骨折・変形による。骨が弱くなっても脊椎の後方にある椎弓や棘突起は硬いために脊椎椎体後縁はつぶれにくいが、椎体前縁には何の支えもなく荷車がつぶれやすいために、円背が生じる。よく脊椎の圧迫骨折と変形とは混同される。レントゲン像でわかるほど新鮮な脊椎椎体圧迫骨折は、骨折であることを確実に認識できるが、一が月も経過して骨折が修復されて消え、さらに骨折後半年もたては、きわめてゆっくりと変形してきた脊椎と区別できなくなる。強い痛みがある場合や安静が必要である場合は、脊椎椎体変形ではなく圧迫骨折であるとして、ます診断を確定する必要があるが、骨の脆弱性を証明するためならば、急激に生じた脊椎椎体圧迫骨折でも、慢性的に進行した変形でも大差がないので、両者が用いられているのである。