EU職員の半数以上が翻訳作業に従事

日本や米国などの国は、公用語をこれと定めていません。しかし、世界にはシンガポールのように、憲法や法律でそれを明記している国も多いです。英語を公用語と定めている国は、現在、世界に60か国ほどあります。

インドは、憲法の中に、四章九条にわたってそれを規定しています。

連邦の言語、最高裁判所最高裁判所で使用する言語などいちいち定めています。何しろここは英語も含め19もの公用語がある国です。ヒンディー語が国語とされていますが、全国であまねく使われ、理解される言語は英語です。

ベルギー憲法では、フランス語区、オランダ語区、ブリュッセル・首都の二言語区、およびドイツ語区に分け、議員の言語集団別規定、大臣の言語別比の規定などを事細かに規定していました。

ルクセンブルクベルギーは、複数の言語を公用語とする多言語国家の代表です。そのため、この国の翻訳会社はそのサービスの質が高いことで有名です。

ルクセンブルクの場合、公用語はドイツ語とフランス語の二ヵ国語です。

中央政府レベルでは、憲法をはじめ公文書はフランス語で書かれています。同時に、地方自治体ではドイツ語が使われています。

ベルギーは、北部はオランダ語のフラマン圏、南部はフランス語のワロン圏と明瞭に分かれています。公用語はこの二つです。

欧州連合は加盟国のうちアイルランド語を除く加盟メンバーの言語を公用語としています。

EUでは、すべての公用語は平等に扱われる建前です。

欧州委員会委員の記者会見となると、すべての言語に同時通訳がつくのが慣例となっています。

かくしてEUでは膨大な量の翻訳・通訳サービスが必要となります。欧州委員会の議員は1万4000人いますが、正規職員のうち4割、臨時職員を含めると5割以上が、通訳・翻訳業務に従事しています。

しかし、毎日の業務すべてに同時通訳をつけるわけにはいきません。そこで、作業語(working languages)が必要になります。ここで最も頻繁に使われるのが英語です。

1991年の時点での欧州委員会のある報告書によると、欧州共同体ではフランス語がなお相当使われているが、若い世代では英語が好まれているといいます。英語の強さの一つは、若い世代に支持されていることです。

ただ、作業後の選択については、かなり融通無碍のところがあります。

たとえば、部門長がフランス人の場合は、その部門内での会議はまず間違いなくフランス語となりますが、アイルランド人だと英語、イタリア人やギリシャ人の場合、部門長がフランス語を使えればフランス語、英語を使えれば英語、といった具合です。上司に提出する文書は上司の母語に翻訳して提出するのが普通です。

また、取り扱う分野や内容によって、例えば農薬ならフランス語、通信なら英語という仕切りもよく見られます。その分野に強い国際競争力を持つ国、それがその国の国内政治の上で大きな意味を持つ国、そうした場合、それぞれの国の言葉が使われます。

さらには、ある会議で最初は英語で話していたが、そのうちフランス語に代わり、最後にまた英語に戻るといったこともしばしば見受けられます。