麻痺していない側の手足を固定するリハビリ法

 従来はリハビリが脳内に何を起こしているか目でみることかできなかったのですが、最新の身体的に害のない(非侵襲的といいます)機能的MRI検査という画像診断法か登場して、実際に脳のどの部分か働いているかを画像としてみられるようになりました。

 たとえば、脳梗塞による半身麻痺の患者さんの脳を検査してみると、健康な側(健側といいます)の脳の運動前野や、補足運動野と呼ばれる部分が活発に活動していることがわかったのです。また、脳卒中後の脳では、失われた部分の機能が正常な他の部分へと移動する可能性かあることが示されたのです。

 錐体路皮質脊髄路ともいいます)と呼ばれる大脳運動野から手足を動かす筋肉にまで至る神経経路は延髄で交差していて、右脳の運動野は左半身を動かし、左脳の運動野は右半身を動かしているのですが、実はこの皮質脊髄路の一〇~一五%は延髄で反対側へ交差せずに同側の体幹の運動に関係していると考えられています。この同側経路の機能は、正常な状態では対側からの抑制を受けるため、あまり目立たないのですが、麻痺が生じると、この対側からの抑制が取れ、健康な側の大脳運動野が麻痺した部分を動かすべく、活発に働き出すともいわれています。

 つまり、脳卒中で麻痺が生じると、大脳で神経ネットワークの再編が起こっているのです。このように、脳内では非常にダイナミックな機能の再構築が行われていることが明らかとなり、脳の可塑性を利用したリハビリの意義を証明しました。

 リハビリとして確立した方法には、バイオフィードバック法、電気刺激法・機能的電気刺激法、温度刺激法、メンタルプラクティス(運動の想像による練習)、反復的作業訓練などがあります。

 最近は、脳の可塑性をもっと引き出すことにより、動かなくなった部分の機能を積極的に取り戻そうとする直接的なアプローチが脚光を浴びています。このネットワークの再構築をより大規模に誘導することかできれば、リハビリの効果がさらに上がるのではないかと期待されるわけです。

 たとえば、新生児や乳児でも脳卒中や脳腫瘍で、脳の大きな範囲に不可逆的な損傷が生じることがあります。なかには、一側の大脳半球全体か失われるような大きな損傷を受けてしまう子どももいます。大人であれば、確実に植物状態となってしまうような状況でも、こうした子どものなかには、両手足に麻痺もなく言葉も話すことのできる子かいるのです。

 現在では、この直接的アプローチで、新しいいくつかの画期的なリハビリが行われるようになってきています。