インターネット・マーケターが直面する課題

 インターネットがわれわれの生活とビジネスをどう変えるかについては、今後もしばらくはその結論はでないでしょう。インターネット・ビジネスの提唱者たちは、インターネットが与える影響の大きさを革命とまで表現し、全く新たな世界が現れてくるかのように説きました。

 確かにインターネットは、これまでになかったデジタル製品やサービスをわれわれの前に見せてくれるだけでなく、モノの探索や購入といった仕組みをも大きく変革してきています。時間や空間や、人々の意識の障壁さえも取り除きながら、社会全体の仕組みを変えつつあります。今では重厚長大型の企業であることは、それだけでは決して強みではなくなりました。

 画一的な製品をもとにした規模の経済によるメリットは薄れていき、個々の顧客のニーズにすばやく対応し、狙ったターゲット・セグメントと長期的な関係を築ける企業だけが大きな利益を手にすることができます。それが個人や中小企業であっても、専門的な製品やサービス、またそれらを他より上手に伝える仕組みさえ提供できれば、世界の市場に参入することも不可能ではありません。

 しかし一方で、解決しなければならない課題もいくつか残っていて、そのことはインターネット・マーケティングが決してバラ色の世界に染まっているわけではないことを示しています。

 ①限られた購入者

 インターネットの利用者が拡大している中、いまだ製品やサービスの購入をインターネット上で定期的に行っている消費者は限られています。二〇〇四年度の調査によれば、わが国でのインターネット上での買い物経験者は八割を超えているものの、その頻度は年に2~4回が主流です。翻訳などの特殊なサービス以外で購入経験のあるネットユーザーの中の約半数は、インターネットで定期的に購入する製品やサービスはないと回答しています。インターネットを自由に検索やショッピングに使いこなし、その利便性を日常的に享受しているヘビーユーザーや企業による利用が増す一方まだ多くの一般的な消費者にはインターネットは買い物をするにはなじみの持てない場のようです。

 ②無秩序なまでの拡大

 今ではインターネット上には無数のウェブサイトが存在し、無尽蔵とも思えるほどの情報を入手できる環境にあるといえます。しかし、思ったサイトや情報に必ずしもたどり着くことができるとは限らず、ユーザーはフラストレーションを感じています。また新たにサイトを立ち上げたからといって、それで人々に知られ、アクセスしてもらえるわけではありません。調査によれば、たまたま自社サイトを訪ねてもらっても、八秒以内に相手の関心にマッチしなければすぐに他のサイトへ移られてしまうといいます。こうして気づかれないまま埋もれてしまうサイトがインターネット上には無数に存在しています。

 ③安全性

 わが国のインターネット・ユーザーの約八割が、インターネット上でのセキュリティへの不安を感じています。その中では、ウェブ上での情報の取り扱いへの不安が六割でもっとも多く、次いでウェブサイトの情報内容の信頼性に対するものが約四割、ウェブ上で取り扱われている製品やサービスの信頼性に関するものが三割となっています。実際にコンピューターウィルスやプライバシー情報の流用など、セキュリティ被害にあった経験者も半数近くにのぼっています。

 企業も、スパイ行為や妨害目的で、自社のコンピューターネットワークに不正侵入されることへの不安をつねに抱えています。ある衛星メーカーの社員が宇宙開発事業団から設計図を不正アクセスによって盗んだという事件や、他人になりすました人物がオンライン・バンキングに侵入して多額の金額を不正に引き出したといった事件もありました。セキュリティ技術は日々進歩しているとはいうものの、そうした技術開発とその抜け穴を探して侵入したり、相手に攻撃を仕掛ける技術のせめぎ合いが続いています。

 ④プライバシーと倫理

 米国FTC(連邦取引委員会)が一九九七年に六七四の商用サイトを対象に調査した際、その九二%が顧客の個人情報を収集しながら、その使途を公表していたのはわずか一四%でした。その後、米国ではプライバシー問題に関しての政府の介入を避けるため、多くのサイトは自らで個人情報の収集や利用方針を確立していったそうです。

 わが国では、二〇〇五年四月一日から個人情報保護法が全面施行になりましたが、それに先立ち個人情報管理のずさんさを示す多くの報道が目を引きました。京都府内の自治体での住民基本台帳記載情報の漏洩や、続いて起きた大手エステサロン、食品メーカー、航空会社、インターネット接続業者、コンビニ、カード会社などから、膨大な数の個人情報が流れ出してしまった事件です。また信販会社や消費者金融の利用者の信用情報が流出するといったケースも発生しました。このような事件が決して大ごとではなくなった今、多くの消費者はますますプライバシーの問題に関して敏感になっています。

 実際、わが国でインターネット上での個人情報の漏洩被害を受けたことを実感している人の割合は二五%を占めていて、またユーザーの約六割がインターネット上での情報の取り扱われ方において不安を感じていることが調査で示されています。

 ⑤消費者からの声

 今ほど消費者が、企業に向けて自らの声を上げやすくなった時代はありません。インターネットによって企業が溢れるほどの情報を消費者に流すことができると同時に、企業に対して不満を感じた消費者も、今まで以上に効果的に怒りを訴える手段を手にしたのです。

 以前、ビデオデッキの修理に関してメーカーに問い合わせをしたユーザーが、企業のお客様窓口の対応に不満を抱き、やがて電話での録音記録をインターネット上で公開したことからその内容が一般にも知られることになりました。