インターネット経済の戦略ルール

 企業がマーケティング活動を効果的に展開できるかどうか、また、市場で勝ち残れるかどうかは、特定の戦略を実行したかどうかだけで決まるものではありません。いくつもの戦略を効果的に組み合わせつつ、その中でタイミングよく有効な戦略に焦点をシフトしていくという行動が求められます。企業がこれから検討すべきいくつかの戦略ルールを整理してみましょう。

 ①物理的距離の意味はなくなる

 インターネットの利用によって、情報の入手や買い物などの取引に関しての距離的制約は一気に減少しました。今では売り手と買い手が直接つながることで、これまで生産や流通の基礎的コンセプトだった規模の経済や垂直的統合の考え方に代わって、知識の経済とでもいえるメカニズムが働くようになりました。情報が豊富で誰とでも自由にやりとりできるインターネットの市場では、経済学で取引コストと呼ばれる、双方の情報不足によって売り手と買い手を適切にコーディネートするためにかかる費用を大幅に削除することができます。時間や距離の制約がなく価格などの情報がいつでも入手可能になれば、企業は部門間でのやりとりよりも外部の企業などとの取引(製造や販売)を行った方が効率的だとの見方もできます。企業間取引サ イトやBtoB取引対象のオークションサイトの登場は、こうしたメカニズムがもとにあります。

 ②ネットワークで市場の成長は加速する

 インターネット上のネットワークは急速に拡大を続けています。そのために必要とされるコストの低下と生産性の向上は、それぞれムーアの法則メトカーフの法則が指摘するところです。今後、コンピュータやプリンタといった機器だけでなく、家電製品のほとんどが、そしてクルマなどもネットワークにつながっていき、われわれの生活に新たな価値を提供してくれる

 ③ネットワークの価値は市場シェアとともに急激に増加する

 たとえ話ですが、世界で最初に製造されたファックスは、たとえそれが何百万円した代物でも、その使用価値はゼロだったといえます。なぜならば、つながる相手がいなかったからです。ネットワーク上では、利用者の数こそが価値と考えられます。各種ブラウザやアドビ(アクロバット・リーダー、マクロメディア(フラッシュ・プレイヤー)、リアルネットワークス(リアルプレイヤー)などが、自社の製品の一部を無料で配布しているのも、まずはユーザーベースを増やし新規参入者を防ぐとともに、有料の上位バージョンを販売して利益を上げるのが目的です。

 ④インターネットでワン・トウ・ワンのアプローチが可能に

 データベースとメディアとしてのインターネットの利用によって、たとえ顧客を何百万人と抱える大企業であっても、顧客一人ひとりに最適化した製品提案やコミュニケーンヨンを実現することができるようになりました。しかし、そのことは技術的な可能性を示唆しているだけであって、実際に優れたマーケティング適用を行っているところはそう多くはないでしょう。顧客満足の向上のためにうまくテクノロジーを利用している例の一つが、フェデックス社などの国際宅配業者です。彼らは自社のサイト上で、顧客が自分が依頼した荷物がどうなっているのか追跡できるサービスを提供しています。このことは、顧客自らがアクセスして情報を得られるとともに、企業はそのためにかかっていた人的なコストを限りなくゼロまで削減できました。

 ⑤市場は顧客を中心に回る

 インターネット上では、顧客は一瞬のうちに(クリック一つで)別のサイトへ移ります。顧客がネット上で買い物をしようとするとき、容易に探している商品が見つからなかったり、あるいは住所やクレジットカード番号を記入しづらがったり、余計なプライバシーにかかわる質問をされただけで購入を中止し、別のネット店舗を訪ねる可能性があります。そして多くは、二度と戻ってはきません。顧客は自分にとって相応しく使いやすいサイトから二四時間三六五日のサポートを期待し、プライバシーも含めてあらゆる情報の開示を今以上に求めていくことでしょう。

 ⑥人がもつとも重要な資産

 古くさい当たり前の台詞のように響くかもしれませんが、企業の生産性の源が設備から知識へ移行する中、ドラッカーの次の言葉は、ますます傾聴に値するのではないでしょうか。「二〇世紀の企業における最も価値ある資産は生産設備だった。他方、ニー世紀の組織における最も価値ある資産は、知識労働者であり、彼らの生産性である」(『明日を支配するもの』上田惇生訳、ダイヤモンド社)。

 ⑦情報の管理能力が市場の力学を決定する

 買い手について、また売り手について、さらにその両者の取引についての情報をどう管理するか。こうした情報管理のノウハウとシステムをもとに、新たな仲介ビジネスとしてのインフォミディアリが誕生しています。自らが製品を開発するわけではありませんが、顧客のプロファイルや購買行動を分析したりモデル化し、それらを他の企業に販売します。また、買手
と売り手のマッチングを図ることで手数料を得るビジネスです。いずれも情報に、自分たちならではの付加価値を与えられることがポイントになっています。