内臓にも異常をきたす

 

以前は、骨粗鬆症により胸・腰椎に骨折・変形をおこして、背中や腰が丸くなったり、身長

が縮んだりしても、腹部内臓にまで大きな変化を生じることはない、とされていた。もし、脊椎の変形が他に影響するとしても、胸郭を形成する肋骨の下端が骨盤の前方に位置する腸骨を圧迫して痛みが生じることと、腹部が折りたたまれたように小さくなるため食事摂取量が減ることの二点ぐらいだろうと考えられていた。このため、円背の強い患者さんが整形外科の外来をおとずれた場合には、日常生活で可能なかぎり体を伸ばしたり、反りかえるようにするなどの指導をし、また体を伸ばす体操を教えるぐらいで、患者さんには納得していただいていた。たとえば、壁のできるだけ高いところに触れる、といった背中を伸ばす指導で、円背に合併する訴えは少なくなっていたようである。

 

 円背では、腹部が圧迫される以外に、肺臓がおさまる胸腔の体積が減少することも容易に想像できるが、一般的に肺から酸素をとりこむ能力には十分な余力があり、胸腔の縮小ぐらいでは、通常生活にはなんら支障がない、と考えられる。したがって、円背の強い女性がくりかえし急いで階段を上下するなどにより息切れをするとしても、日常生活を営むうえで息苦しい、との訴えは聞かない。それは、骨粗鬆症が進行した患者さんの運動負荷を増やしていっても、良が苦しくなる前に、足・腰の筋耐久性の方が先に限界に達してしまい、胸腔体積の縮小は症状としてあらわれにくい、ということによる。

 

 ところが、胃が圧迫されたことにより、胃の上部が腹腔から胸腔に入りこむ例がある、との圧迫骨折によるはげしい腰背痛に加えて、下肢への神経に沿った放散痛や麻痺などがみられることが多い。青壮年の外傷性脊椎圧迫骨折の患者さんを診察したさいには、患者さんを殼大隕まで反りかえらせて、つぶれた脊椎椎体を復元しようと試みるが、脊椎の変形以上に留意すべき点は神経麻痺の有無を調べることである。すなわち、骨折片が脊髄を圧迫しているかどうかであり、もし神経症状があれば、それを早急に除去することのほうが大切なのである。これにたいして、骨祖鴬症では小さな外力で脊椎椎体がつぶれてしまうために、脊髄を圧迫することは少なく、また、骨折を復元しようと体を強く反りかえらせると、他の骨にもヒビが入る可能性があるため、整復による治療はおこなわれないなど、背壮年の骨折への対応とは大きく異なる。

 

 脊椎椎体が破壊されるために痛みを生じる病気として、結核性脊椎炎(脊椎カリエス)やがんの脊椎転移があげられる。これらの病気では脊椎付近に病巣ができ、それが急速に増大するため脊髄を圧迫し、下肢への放散痛や麻痺をおこすことが多い。これら両疾患の特徴としては、腰背痛が継続し増強する点があげられ、この臨床経過から両疾患と骨粗鬆症とは区別ができる。