なぜ腰や背中が痛むのか

 

 

 骨粗轍症にががると、まず最初に腰や背中がつぶれて円背や身長短縮をもたらすが、こ

のさいには腰や背中の痛みをともなう。骨粗鬆症による腰背痛には三つのタイプがある。その一つは、胸・腰椎に大きな力が加わり圧縮されて生じるもので、四肢の骨折と同様のはげしい痛みを覚える。第二の痛みは、椎体内を網目状に走るカルシウムの線維=骨梁がプチと折れ、椎体の変形が進むさいに生じるもので、短いが鋭い痛みが生じる。第三の痛みとしては、胸・腰椎が円背となっているために生じる腰背筋の慢性痛がある。いずれの痛みにたいしても、正しく診断をし、他疾患を取り除き、患者さんを痛みから早く解放してあげないと、臨床にともなう筋力低下などを招いてしまう。

 

 骨粗鬆症の診断と治療について本格的にとりくむことになったきっがけは、昭和四〇年

代の終りごろ、わずがな外力で腰がつぶれた患者さんに遭遇したことである。もちろん、その前から人やネズミの骨のタンパク質であるコラトゲンが、歳をとったり骨萎縮を生じたさいにどのように変化するがについて、先輩の医師から指導を受けて研究はしていたものの、高齢者専門病院の整形外科に勤務していたときも、とくに骨粗蟐症の臨床に興味をもつということはながった。しかし昭和四〇年代に経験した、わずがな外力で腰椎がつぶれた患者さんの印象は強烈であった。それは病院の職員の母親で、六〇歳代の太った人であったが、海外旅行へ旅立つ予定で重い荷物を羽田空港まで運んだところまでは元気であったものの、いよいよ出国というときに体をひねって腰椎圧迫骨折を生じてしまい、身動きできず、飛行機にも乗れずに、救急車で私たちの病院にこられ、入院された。

 

 まだ若さあふれる女性であったが、腰椎のレントゲン像では骨の輪郭はみとめられるのに椎体内を走る骨梁がない状態で、そのうちの一つの椎体はぐしゃっとつぶれていた。骨折のきっがけは体をふいにひねっただけである。骨粗鬆症は、この患者さんに海外での骨休めのかわりに、病院のべットでの臨床を強いたわけである。この経験によって私は、早期診断、予防・治療の必要性を痛感させられた。

 

 脊椎椎体に急激な圧迫骨折が生じると、骨膜に密集し、網目状となって骨をとりかこんでいる神経線維や、骨の内面や管内の血管に沿って走っている神経線維などが、痛みを感じとる。骨折直後は伝達速度の速い神経線維が、つづいて伝達速度の遅い神経線維が、脳に痛

みを知らせるため、最初は倒れこんでしまうほどのはげしい痛みが生じ、つづいて持続する痛みが生じて、立ち上がれなくなり床につかざるをえなくなるのである。骨折部が線維性組織で癒合する一週間後からは、コルセットなどで骨折部を固定すれば、背もたれ座位、立位がとれる。痛みは三~四週間でほぼおさまる。’

 

 体を動かす時に、椎体内を走る骨梁の一部に骨折を生じるといった現象は、脊椎椎体をルーぺなどで観察すると、変形椎体の骨梁に骨折時期の異なった骨癒合が数多く見られることからもわかる。この骨折では、ときどき背中や腰に剌すような痛みを感じるが、この痛みは二~三日で消えるのが特徴である。これは骨梁をとりまいている刺激されるために生じるもので、細い骨折骨梁は周囲に支入がたくさんあるため、まもなく神経刺激もおさまり、疼痛はつづがない。

 

 骨組転症にともなう脊椎椎休多発骨折のために円背が強くなると、体のうしろにある腰背筋はつねに上体を後方へ引き上げようとしてはたらかなければならない。良い姿勢の状態で立っている場合は、体が前後に揺れるのを微修正しようと、腰背節がときおりはたらくだけであるが、前屈倥や円背での腰背節がはたらかなければならないことが、筋電図検杏でとらえられている。その結果、患者さんは腰がこったような慢性腰背痛に悩まされる。

 

 骨粗鬆にともなう腰の痛みは、以上の三つのタイプからなるが、下肢に走る痛み(放散痛)はない点、下肢に向かう神経に麻痺をおこすことはごく稀である点が、他疾患と区別しうるポイントとなる。青壮年痼の人たちの胸椎・腰椎圧迫骨折は、高いところからの転落事故やスポーツなどによる外傷に由来することが多く、これらの状況下では、骨を圧縮するほどの外力が脊椎のうしろを走っている脊髄にも加わる。したがって、この場合は脊椎の圧迫骨折によるはげしい腰背痛に加えて、下肢への神経に沿った放散痛や麻痺などがみられることが多い。青壮年の外傷性脊椎圧迫骨折を診察したさいには、患者さんを大隕まで反りかえらせて、つぶれた脊椎椎体を復元しようと試みるが、脊椎の変形以上に留意すべき点は神経麻痺の有無を調べる。すなわち、骨折片が脊髄を圧迫しているがどうが

であり、もし神経症状があれば、それを早急に除去することのほうが大切なのである。これにたいして、小さな外力で脊椎椎体がつぶれてしまうために、脊髄を圧迫することは少なく、また、骨折を復元しようと体を強く反りがえらせると、他の骨にもヒビが入る可能性があるため、整復による治療はおこなわれないなど、背壮年の骨折への対応とは大きく異なる。

 

 脊椎椎体が破壊されるために痛みを生じる病気として、結核性脊椎炎(脊椎カリエス)すがんの脊椎転移があげられる。これらの病気では脊椎付近に病巣ができ、それが急速に増大するため脊髄を圧迫し、放散痛や麻痺をおこすことが多い。これら両疾患の特徴としては、腰背痛が継続し増強する点があげられ、この臨床経過から両疾患と骨粗鬆症とは区別ができる。