セックスなど運動時に生じる頭痛


頭痛を訴えて医療機関の外来を受診する患者の8割以上は、片頭痛、緊張型頭痛などの慢性頭痛ですが、驚くような特殊な頭痛もいくつかあります。

まずは、鎮痛薬誘発頭痛です。読んで字のごとく、鎮痛薬で誘発された鎮痛のことで、本来、頭痛を治すはずの鎮痛薬が原因で起こる頭痛があるのです。アルコールや麻薬、睡眠薬などと同じように、鎮痛薬の常用によって薬の依存症になってしまう人が稀にいますが、それどころか、さらに頭痛が悪化するという悪循環を起こすものです。

このような患者は、全頭痛患者の1~2割程度ですが、ほとんどが片頭痛患者で、また女性に圧倒的に多いものです。後頭部や頭全体に痛みが起こり、拍動性の痛みと鈍い痛みが両方起こります。吐き気や嘔吐を伴った痛みが早期から起こるため、目が覚めてしまいます。患者は、通常の消炎鎮痛薬やエルゴタミン製剤を長年服用していて、頭痛を恐れるために鎮痛薬を使用するという悪循環に陥っています。たとえば、リウマチ患者は長時間にわたり消炎鎮痛薬を服用しているにもかかわらず、鎮痛薬誘発頭痛になることはなく、ごく一部の頭痛もちの人にだけ起こると考えられています。

痛みがある場合、下行性抑制系と呼ばれる経路が働き、その痛みを緩和させようとする機能が人間にはあります。しかし、鎮痛薬誘発頭痛を起こす患者では、鎮痛薬を使用すると脳が「鎮痛薬があるから下行性抑制系は働かなくて大丈夫だ」という指令を送り、そのため痛みが増強するのではないかと考えられています。鎮痛薬誘発頭痛の治療は、鎮痛薬の使用をやめることですが、中止することによって一時的に症状は悪化しますので治療は難渋します。

特殊な頭痛として、運動時に起こる良性性交時頭痛と労作時頭痛があります。

性交時に脳出血くも膜下出血が発症して頭痛が起こることもありますが、良性性交時頭痛はこのような治療を要するものではない良性の頭痛です。この原因は、射精時やオルガスムの際の後頭部における拍動が頭痛となるもので、ヒポクラテスの時代からすでに注目されていたようです。また、頭や首の筋肉の過度な緊張による後頭部痛なども良性性交時頭痛とされています。この頻度は不明ですが、フランスでは0.21%、スカンジナビアでは1.3%、日本では0.3%、女性に比べて男性が3~4倍の頻度で起こったという医学論文があります。

これらの頭痛は、性交時の血圧上昇、脈拍増加が原因と考えられ、高血圧、肥満、運動不足、片頭痛や運動時頭痛のある人、心理的ストレスなどが原因となると考えられています。

労作時頭痛は、良性性交時頭痛と類似するもので、水泳、ランニング、重量挙げなどの激しい運動時に誘発される頭痛です。原因は、息こらえによる頭蓋内圧の上昇と考えられ、排便時や咳をしたときにも起こりうるものです。これらの激しい運動を行う際は、やはり準備運動をしてから行うと発症頻度は下がるといわれています。