ブログの登場:インターネット大陸への衝撃

 ブログというのは「簡易型ホームページ」「日記型ホームページ」などと日本語に翻訳されている。「ウェブログ」の意味で、直訳すれば「ホームページ日記」だ。専門知識がなくても、ブログのサービスを利用すれば、誰でも簡単にホームページを持てるようになったのだ。

 アメリカで、ブログが世問に最初に認知されるようになったのは、二〇〇一年のことだとされている。きっかけは、同年九月十一日の同時多発テロだった。この事件をきっかけに、アメリカ国民の間に「テロに対する自分の意見を言いたい」「お互いの気持ちを交換したい」という情報発信に対する熱望が広範囲に巻き起こった。そしてホームページやネット掲示板などで政治的な意見を発信する人々が急増し、ある種の「インターネット論壇」のようなものを形成するようになったのである。

 ちょうど同じころ、サンフランシスコで「ムーバブルタイプ」というソフトが生まれた。このソフトを開発したのは、ミナ・トロッ卜とベン・トロッ卜という夫妻である。トロット夫妻の作ったムーバブルタイプは、ブログを簡単に開設することのできるソフトだった。

 日記を書くソフトは以前から存在していたが、他人の日記に対してコメントをつけ加えたり、あるいは過去の日記の蓄積を簡単に検索して閲覧できるような使いやすいソフトは皆無だった。妻ミナは自分でブログを書こうと考えていて、

 「もっと使いやすいソフトはないの?」

 と夫のベンに相談し、プログラマーだったベンがムーバブルタイプの最初の版を作り上げた。そしてこのソフトが二〇〇一年秋、無料で公開されると、クチコミによって人気が高まり、あっという間にインターネットの世界に広がってしまったのである。

 ムーバブルタイプは、いろんな意味で革新的だった。しかしもっとも革新的だったのは「トラックバック」という仕組みを持っていたことだった。

 トラックバックというのはもともと映画の現場で使われている用語で、カメラが後ろに下がりながら被写体を撮影することだ。

 ブログのトラックバックというのはまさにこのイメージをうまく使ったもので、誰かがブログ上で別のブログにリンクを張った際、その相手のブロダにも「リンクを張りましたよ」というメッセージが表示される仕組みだ。つまりはブログ同士がお互いにつながりやすくなり、意見交換が活発にできるようなしくみを用意したのである。

 これによって、インターネッ卜の世界は大きな影響を受けた。それまで「インターネット大陸」の狭間にあって孤立していた個人のホームページが、急速に他のホームページ群とつながるようになったのである。