療養病床再編の必要性について

 療養病床とは「主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させるための病床」と位置づけられている。そして内訳として、医療保険適用のものと介護保険適用のものの二種類がある。しかしながら、ともに医師の対応がほとんど必要ない人がかなりの割合でいるのではないかと、長年いわれてきた。

 これは、昭和四十八年の老人医療費無料化以降、福祉施設が不足するなかで、病院が高齢者の受け皿となってきた歴史的経緯によるものであり、まさに「社会的入院」の温床となっている。入院医療の質を改善するとともに、医療費の適正化にもつなげていくためには、「社会的入院」の是正が不可欠である。

 ただし、しばしばわが国の平均在院日数が諸外国にくらべて著しく長いといわれるが、その際に用いられているOECD経済協力開発機構)のデータは各国で定義が異なることに注意が必要である。日本の平均在院日数は三十日を超える一方、欧米先進国は十日前後であるが、そもそも諸外国のデータには療養病床のような施設が除かれているのだ。

 したがって、こうした国際比較だけに頼って議論することは不正確である。OECDのデータは各国政府が提出するデータであり、正しい医療政策論議のためには、政府として国際機関などにおいて統計の基準整備を求めていく必要がある。さらに、諸外国との間ではそのほかにもさまざまな制度や社会状況の違いがあり、データだけを一概には比較できない。

 しかしながら、実生活のなかで多くの国民が、日本にはいわゆる「社会的入院」と呼ばれる人たちが比較的多いのではないかという印象をもっているのも事実である。

 こうした観点から、療養病床を医療の必要性が高い患者を受け入れるものに限定して医療保険で対応し、医療の必要性が低い患者については、病院ではなく老人保健施設やケア(ウスなどを含む在宅サービスなどにおいて介護保険で対応するというのが、今回の療養病床再編の基本的な考え方である。

 このような発想自体は、限られた医療資源を効率的かつ有効に活用しようとするものであり、わが国の医療・福祉政策のゆがみとして長年指摘されつづけてきた課題に解決の道筋をつけるものとして、決してまちがった考え方ではないだろう。ただ問題は、それが実態に即した計画なのか、またそれを具体的にどのようなかたちで実施していくのかという点なのである。