女性に骨粗鬆症が多いわけ

 

 日本に、どのくらいの数の骨粗察症患者がいるかについては、レントゲン像だけから推定する骨蜜度測定法だけから推定した数は出されているが、最近定められたレントゲンと骨密度測定法とを組み合わせた診断基準に基づいて推計された、信頼のおけるデータはまだない。そこで、四〇歳以上の一一七人のレントゲン像から推計された患者数をみると、六五歳以上の女性の約二分の一が、男性では八〇歳以上の約二分の一が、骨粗髷症にががっている。六五歳以上の人口の約三分の二、日本では約七〇〇万人が骨粗朧症にががっていると推定されるが、そのうち八割近くは女性である。日常生活にも耐えられないほど弱くなる骨粗鬆症の患者は、男性に比べて女性が圧倒的に多いが、これほど男女差の大きい加齢疾患は、ほかにはない。

 

 子宮がん前立腺肥人癨など、女性あるいは男性にしか備かっていない臓器の病気に、性別による偏りがあるのは理解できる。しかし、男性も女性も保有していて、性別に関係なく支持・保護作用をになっている骨の、加齢にともなう病気の発生率が、男女間で四倍近くもの差があるのはどういうわけなのたろうが。たとえば、脳卒中は男性に多い、高血圧性疾患は女性に多い、などの統計はあるが、四倍もの開きはない。この開きは、女性の骨がもともと弱いことと、骨を強くするのに役立っている女性ホルモンが、閉経により急速に分泌されなくなることとによる。

 

 生れたばかりの赤ちゃんは、体重の約一%のカルシウムを含んでおり、この量には男女間で差がない。しかし成長とともに、骨内カルシウム量に男女間で差が生じ、一一~一三歳と思春期の早期から骨のカルシウム早が急増する女性に比べて、遅れて骨のカルシウム量が増える男性の方が、最大カルシウム量が多くなる。男性は骨内に最も多くのカルシウムをたくわえた年代では約一〇〇〇g前後のカルシウムを保持するが、女性はその年代でも約七〇〇~八〇〇gと二〇~三〇%も少ない。これは、女性が素因として、男性に比べて体格が華奢であることが最大の原因といえるが、男性に比べて運動量が少なく、食事量も少ないことにも由来している。ただ、女性の骨内の最大カルシウム量が少ないのは平均値においてであって、女性でも男性な

みに多い人もいれば、若い頃から高齢者と同程度のカルシウム量しか示さない人もいる。したがって、女性であるからと運命論的にとらえることなく、女性でも男性なみの骨格をつくりあげるように、思春期から青壮年期に体をきたえる努力と、中高年期にカルシウムを失わない努力をすることで、女性というハンディは克服できるといえよう。

 

 女性に骨粗鬆症が多い理由の二つ目は、閉経後の女性ホルモン分泌の低下である。骨芽細胞の分裂・増殖だけでなく、骨芽細胞の機能の促進にも役立っているエストロゲンの骨形成作用は、顕著である。その他、エストロゲン副甲状腺ホルモンにたいする骨の細胞の感受性を低下させることす、腎臓に作用してビタミンDの産生をうながすことなどにも役立っており、これらの作用により骨萎縮の進行が抑えられているのである。ところが、閉経により血液中のエストロゲン濃度が一〇分の一ぐらいに低下すると、骨形成のはたらきを上回って骨吸収がうながされる。このように、骨を形成したり吸収したりする細胞が活発に活動していて、なお骨吸収がまさっている状態を、高回転型骨萎縮という。その他、七〇~八〇歳代の高齢者に

みられる骨萎縮では、骨形成と骨吸収のいずれも活発でなくなっているものの、徐々に骨萎縮に向かうというタイプが多く、これを低回転型骨萎縮という。

 

 閉経後の高回転型骨萎縮では、閉経後四上五年間は年間二大二%も骨からカルシウムが消失していき、閉経後一〇年たってやっと年間一%のカルシウム減少となり、その後、高齢者特有の低回転型骨萎縮へと移行する。閉経後の骨内カルシウム量減少率は、思春期の骨内カルシウム量増加率よりも少ないが、増加と減少とはほぼ対称を描くことになる。このような対称性の変化は、男性にはみとめられない。閉経は中高年女性にとって避けられない生理的現象であり、この年代の骨代謝回転が速い分だけ、骨萎縮も迅速にすすむことになる。したがって、自然にまがせておくと、閉経は女性にとって不利なものとなるが、この年代でも努力して予防策を講じることによって、男性に近いていどまで骨萎縮の進行率を低くすることもできる。

 

 骨は生きているから成長もし、修復もする、また骨の中のカルシウムが生命の炎を燃やすのに役立っているなど、骨代謝の利点は数多いが、その陰の側面として、骨萎縮、その病的な状態である骨粗鬆症があるといえる。私たちは生命を維持するため、血液中のカルシウムの恒常性維持機構をはたらかせているが、その担保である骨からカルシウムが取り去られ、破産状態に追い込まれたのが骨粗鬆症だともいえよう。