太もものつけねの骨折

 

 

 骨粗蚣症の患者さんが転倒したさいに、膝を打つ、太ももをねじる、臀部を打ちつける、などで生じるのが太もものつけねの骨折である。この骨折は、骨粗鬆症の患者さんに生じる胸・腰椎や四肢の骨折のなかで、その後の生活に与えるダメージが大きいことから、もっとも深刻なものである。そのため、太もものつけねの骨折を、骨粗鬆症により生じるいろいろな像のなかでも。終末像に位・置づける医師もいるくらいで、この骨折さえなければ骨粗鬆症はそれほどたいしたことのない病気であるともいえる。

 

 大腿骨は骨盤にあいているソケットにつながっているが、ソケットに入る球状の骨端部を大腿骨頭という。大腿骨と大腿骨頭とを連結している橋の部分を大腿骨頸部といい、これは細くて斜めに走っているため、力学的な弱点部位といえる。また、大腿骨頸部は股関節の関節包の中に入っているためその表面は骨膜でおおわれていないことや、大腿性頭をやしなっている血管が大腿骨頸部の中を通っていることなどから、この部位の骨折は骨癒合にとってきわめて不利な状況にある。骨折部が癒合するためには、骨折部をとりまく血液のかたまりが、骨をおおっている骨膜細胞に命令を出して骨をつくる細胞へと変身させ、増殖させる必要がある。しかし、関節包内にある人腿骨頸部では、骨折しても血のかたまりができにくく、変身して増殖する骨膜細胞も少ない。また、骨頭に栄養をおくっている太い血管がちぎれてしまうため、大腿骨頭の細胞は栄養不足におちいり死んでしまうことが多い。

 

 このようなことから、太もものつけねの骨折は治りにくく、治療に時間をかけているあいだに高齢の患者の体力が弱まり、寝たきり状態になりかねない。これが、この骨折が終末像として恐れられているゆえんである。

 

 太もものつけねの骨折をさらにくわしくみれば、大腿骨頸部骨折と、もう少し膝よりのふくらんでいる部分の骨折である、大腿骨転子部骨折とに分けられる。ふくらんでいるのは、臀部の筋肉や骨盤の前方の筋肉が大腿骨につく着地点であるためで、これらの筋肉のはたらきにより、強大な力で股関節を伸ばしたり曲げたりできるのである。その着地点を、それぞれ人転子、小転子といい、この部位の骨折を正確には大腿骨転子部骨折と診断する。転子部は、ふくらんではいるものの、中心の骨密度は低く、モナカのようにがらんどうになっていて、骨折しやすい。この部位は骨膜におおわれており、血のかたまりもできやすいため、骨折が生じても骨癒合はすすみやすいが、筋肉に強く引っぱられている部位でもあるため、骨折面をもとどおりの形に整復して保持しておくのがむずかしい。このため、大腿骨転子部骨折も大腿骨頸部骨折に劣らないぐらい治療のむずかしい骨折であり、この両者をあわせて大腿骨頸部・転子部骨折といったり、略して広義の大腿骨頸部骨折といったりして、恐れられている。

 

これらの骨折患者の平均年齢は八〇歳前後齢であるため、高齢者人口、とくに七五歳以上の後期高齢者人口の増加とともに人腿骨頸部・転子部骨折の患者が増え、一〇年間で十七倍にもなってしまったものと推定される。これら両骨折の中でも、大腿骨頸部骨折は七〇歳代といった比較的若い年齢層で発生し、大腿骨転石部骨折は八〇歳代、九〇歳代土咼齢になるほど発生率が増す。このように、骨折の生じる部位が加齢とともに骨頭部から骨の幹のほうに下がってくる傾向がみとめられるが、これは高齢になればなるほどタイフー骨粗鬆症になる、すなわち皮質骨が薄くなる傾向が見られるためである。