カルシウム不足の日本人

 

 骨を強くするための第一の留意点は、カルシウム摂取量を増やすことである。体液中のカルシウム濃度の恒常性維持機構(ホメオスターシス)をはたらかせるためのカルシウム源として、経口摂取量が少なければ、骨のカルンウムが溶け出してしまう。毎日どのていどのカルシウム摂取が必要かについては、年齢や性別、体の生理状態により異なる。たとえば、女性では一〇歳から一八歳までは一目七〇〇㎎のカルシウム摂取が必要とされている。

体の健康を維持し、病気を予防するための各種栄養素の所要量が定められているが、昨今の栄養状態の改善により、多くの栄養素について、日本人の平均摂取量は所要量を上まわっている。

日本人のカルシウム摂取量はつねに低い状態にあり、最近二五年間にわたって所要量を上まかったことがなく、一日平均五四〇㎎前後と、所背量の九〇%ぐらいのところにあった。ところが一九九五年度以後になって、やっと一日平均五七〇~五八〇mg前後と、所要量の一〇〇%近くに達したが、それでも越えるまでにはいたっていない。さらに性別・年齢別に日本人のカルシウム摂取量を調べてみると、男女とも一五歳から四〇歳代までの青壮年層と七〇歳以上の高齢層では、カルシウム摂取量が所要歇を大きく下まわっている。また、主要食品別にそれらの摂取量を調べてみると、七~一四歳の小・中学生では牛乳・乳製品を摂取しているが、一五~一九歳では平均一二Og、それ以上の年齢層では200g前後の摂取量と、牛乳・乳製品の摂取歇は加齢とともに減りぎみである。それは、学校給食以外では、あまり牛乳・乳製品を摂らない傾向にあることを示唆している。

 

 日本列島は火山灰を多く含打土壌からできているため、上壌中に含まれるカルシウムが少なく、そこから収穫される作物も当然カルシウム含有果が少なくなる。また、日本の川は山岳地帯から海までの距離が短く、火山灰による土壌の上を流れていることもあって、川から採取した飲料水にはカルシウムがあまり含まれていない。そして、たくさんの穀物が穫れる気候に恵まれていることと、乳製品の保存に適さない風土が手伝って、牧畜・酪農が発達しなかった。これらの理由に加えて、海藻類にはカルシウムが豊富であるにもかかわらす、それらを十分に摂取しなかったこともあって、長くカルシウム摂取不足の状態がつづいてきたものと考えられる。

 

牛乳・乳製品中のカルシウムはほぼ五〇%が体内に吸収され、小魚類では約二〇%、緑黄色野菜では二〇%弱が吸収される、との報告がある。この吸収率はカルシウム摂取朧が増えるとともに低下することはすでに述べたが、ほかにタンパク質や糖分とともに摂取したり、胃酸が多い場合は吸収率が上がり、高齢になると低下するなど、食べあわせ、身体の状況などにより、大きく左右されることがわかっている。なかでも、妊娠中・授乳中にはカルシウム吸収率がそれぞれ約二四%、八%上昇するなど、体は目的に沿った生理変化をしめすものである。