エストロゲン製剤

 

 

 閉経後に生じる更年期症状の抑制作用とともに、骨量増加作用をもつエストロゲン製剤は、アメリカを中心とした海外でもっともよく用いられている骨粗鬚症治療薬である。アメリカの西海岸のある都市では、住民のうち閉経後女性の約三〇%がエストロゲンを服用していろとの報告もある。また、イギリスの四〇歳から六五歳の女性医師についてのアンケート調査では、半数以上がエストロゲン使用の経験をもち、六〇歳以下の女性医師の六〇%はいまも使用中であるといったぐあいに、知識がある人たちには広く受け入れられている治療薬でもある。しかし、反対にアメリカのマサチューセッツでは対象女性の八%、イギリスの一般閉経後女性では一五%と使用率が低く、四〇%以上の人たちはここ一年以内にエストロゲン治療を中止したといったように、だれもがいつまでも使用しているわけではない。エストロゲンは、のちに述べる副作用の懸念もあって、つづけて用いるのがむすがしい薬でもある。

 

 エストロゲン製剤としては、日本ではエストリオール(白色の錠剤で、作用は弱いが副作用も少ない)と結合型エストロゲン(保険適応がないが、強い骨量増加・骨折抑制効果を示す白色糖衣錠。副作用が多い)が多く使用され、エストリオールを一年間服用すると四~六%も骨量が増加することが観察されている。結合型エストロゲンに関しては、国内外で有効であるといった報告が多く、腰椎や大腿骨頸部の骨密度増加作用が確認されている。エストロゲンの使用による骨折予防の効果も確認されており、白人女性では生涯の骨折リスクが約四〇%に達すると予測されているが、エストロゲンを用いることにより、大腿骨頸部骨折のリスクが三割は減少するものと推定されている。

 

 エストロゲンは骨量を増やすと更年期症状を軽くするのはとうぜんとしても、神経細胞の活性化や、脳アミロイド沈着の抑制を通して、痴呆を予防することが知られている。また、エストロゲン療法を受けた女性は、心臓疾患にかかる率が通常より四〇~六〇%も低く、変形性股関節症の発生率も少ない、との報告がアメリカからなされている。しかし、エストロゲンの使用が爆発的に増えないのは、乳がんや千冐体がんの発生率が高くなるのではないか、と危惧されているためである。がんの発生率がエストロゲン療法で上がることはない、といった報告もあるが、過去に乳がんになったことがあったり、家系に乳がんの人がいる場合は、エストロゲンの使用を避けるのが一般的である。

 

 今後は、発がん性を低くすることが、エストロゲン療法の課題となる。そのために、エストロゲンの子宮内膜への作用を打ち消す黄体ホルモンであるプロゲスチン製剤の併用がすすめられ、一方、骨と血管には良好な作用をもたらすが子宮にはたらかないタイプのエストロゲンであるラロキシフェンなどが開発されつつある。