食事摂取のできない患者への援助の考え方

 食事摂取が困難な患者の気持に近づくことの大切さに加えて、どうすれば、経口摂取が可能になるかを、いつもあきらめずに考えなければならないだろう。食事摂取が困難な理由は、身体内部の問題のために経口摂取を禁じられる場合を除き、臨床看護上では次のような場合である。

 すなわち、①食欲が低下している患者、②食行動の不自由な患者、③嚥下障害のある患者、④気道内挿管や気管切開患者、⑤意識障害患者、⑥放射線治療中の患者、などである。

 おいしさの基本はまず食物の味によって決まる。食物の味は、多くの要因がからみあってつくられるが、次のような五感のフル稼働によって形成される。
 ・視覚 - 形、大きさ、色、つや、きめ
 ・嗅覚 - 香り(花、くだもの、なまぐさいにおい、焦げ、薬味)
 ・触覚-硬さ、もろさ、なめらかさ、弾力性、粘性、温かさ、冷たさ、辛さ、渋さ
 ・聴覚-カリガリ、パリパリなど
 ・味覚-甘味、酸味、苦味、塩味など

 うまみや風味などは、物を口に含んだときに、舌と鼻の両方に感じる感覚ともいわれる。

 ただ、このおいしさも民族や地域によってさまざまに異なることを忘れてはならない。

 食べ慣れたもののおいしさ

 食事行動はその人の生育暦や時代背景によって異なる。日常生活のなかでの食事への重みづけも、それぞれの家庭環境や労働の程度などにより変化している。「好きだから食べるのではなく、食べるから好きになる」といわれるが、健康なときには、口に合わなくても食べられていたものが、病気になると、まったく受けつけられなくなる場合は多い。つまり、個別性がもっとも如実に現われる状態が病気であるともいえる。

 ところが、入院すると、栄養的合理性と消化・吸収などが重視され、しかも、集団給食の制約もあって、患者は我慢を強いられることになる。食欲を引き出す工夫の第一は、ふだんから食べ慣れたものは何かを知ることから始めるべきだろう。

 個人の食事暦を詳細に知る

 「食べられない」ということを、その患者の心身の問題からだけでアプローチすることは、必ずしも正しくないことを、著者はこれまでに何回も述べてきた。つまり、食物そのものや献立の側にある「食べられない状態」を正しく見きわめることが大切であると思う。

 そのためには、入院時にそれまでその人の食べてきたもの、好き嫌いなどをきめ細かに聞いておく。また、食事をめぐる習慣や様式などについての詳細も知っておく。知り得た情報は、可能な限り実現できるよう、栄養・給食部門への橋渡しも看護師の役割である。

 食事環境を整えることの意味

  誰でも幼いころから身についてきた習慣がある。習慣というのは条件反射が媒介して身につく。したがって、食前のマナーや様式自体が、その患者の唾液や胃液の分泌に影響することを重視すべきである。食前の手洗い、箸やスプーン、ランチョンマットのセットなどが、食事を受け入れる身体の内部環境をつくっていくということになる。いうまでもないことだが、周辺の環境を、食事摂取に相応しく整えることはもちろんである。「食べる」という日常的で決まりきった営みが、闘病の意欲に影響することを考えれば、看護師として、経口摂取への努力にもっと精力を注ぐべきではないだろうか。