各メディアや企業がアテンション(消費者の注目)を獲得するための方法

 ココログやSNS、掲示板が闊歩するC2Cインターネッ卜の中では、いまや企業と個人は等価値になり、『権威』の価値は相対的に低下している。この世界においては、マスメディアの権威や企業規模だけでは、アテンションは獲得できなくなった。人々が権威や企業規模にそれはどの意味を感じなくなり、権威のあるメディアの記事も、個人のブログも等価値に見るようになったからである。

 ではアテンションを獲得するのは、どのような要因なのか。

 答は明快だ。

 いまや情報の流通を完全に支配してしまっている検索エンジンをうまく利用し、検索エンジンの検索結果ランキング上位に入ることである。

 あるいはキーワード広告やコンテンツターゲット広告をうまく活用し、人々の関心を自分に向けさせることである(ちなみに、翻訳会社への新規依頼のほとんどは検索エンジン経由である)。

 つまりはグーグルの提供している基盤にうまく乗るかたちで、グーグル経由で自分に対するアテンションを高めることが、最大の戦略になってきているのだ。

 ベンチャー企業「インフォテリアUSA」社長の江島健太郎氏は、インターネットの二ユースサイト「CNET」に掲載した「展望2006一アテンションーエコノミーの本格化」という記事で、次のように述べている。

 〈2005年の流行語大賞にもなったブログの浸透により、情報の発信量は幾何級数的に増えているが、情報を消費する人のアテンション(注目)は限られている。

 その結果、情報のビットあたりの価値が希釈化されてデフレが起き、アンチスパムや検索エンジンのようなノイズフィルタが力を持つ時代になってきた。

 ところが、Googleなどの検索エンジンはフィルタという「引き算」機能よりもむしろアテンションナビゲータという足し算機能について期待されるようになってきた。フィルタとは本来、ユーザーが望まない情報を自動的に捨てて快適なネットライフを送るようにするための技術だが、人々がフィルタへの依存度を高めるようになると、むしろユーザーのアテンションそのものを誘導するための隠れた権力として作用するようになる。実際、Googleのビジネス的な成功はこの「足し算」機能の魅力によってもたらされている。それがアテンション・エコノミーの本質だからだ〉(二〇〇六年一月一日)

 江島氏の言うように、グーグルはアテンションのナビゲータ(道案内人)になろうとしている。

 アテンションがすべてを支配するアテンションエコノミーの世界では、

「囲い込み」

 という戦略はあり得ない。

 利用者や読者、ユーザーを囲い込んでしまうのではなく、人々がお互いのアテンションに基づいてさまざまなコンテンツや情報を流通させる際に、その流通を「仲介」すること
が、最高の戦略となるからだ。

 振り返ってみれば、一九八〇年代的なIT企業の王者だったマイクロソフトは、徹底的な囲い込み戦略を採った。

 ウィンドウズというOSで人々を囲い込み、この囲い込みによってマイクロソフト・オフィスやインターネット・エクスプローラを人々に使わせることに成功し、そしてその成功によってさらにマイクロソフトの囲い込みは進んだ。

Google 既存のビジネスを破壊する』 佐々木俊尚著より