「引きこもり」は運動してもストレス発散できない!?

 人間は他人と関わって社会的な援助を受けると、ストレスを軽減することができます。もちろん他者との関わりのなかで軋轢か生じることもありますか、悩み事を他人に相談したりすると気持ちか楽になったり、孤独感が紛れ「自分一人で生きているのではない」という実感を得ることは、心の安定感をもたらすでしょう。

 しかし最近、若者が家にこもって外界との接触を断つ「引きこもり」と呼ばれる問題があります。このような生活スタイルは脳に何らかの影響を与えるのでしょうか。

 ラットを一匹飼い(独居生活ラット)と、三匹飼い(集団生活ラット)にして比較した実験があります。それぞれの飼育箱に「回し車」を入れ、運動できるようにしておきます。

 一般に、運動は海馬での神経細胞新生を促進することが知られています。運動した集団生活ラットは、運動させない集団生活ラットと比べて、新しい神経細胞がやはり多く作られていました。しかし、反対に運動した独居生活ラットの場合は、運動しなかった独居生活ラットよりも新しい神経細胞がつくられなくなっていました。

 運動するとコルチゾールか増加しますので、このことから、どうして独居生活のラットが運動しても神経細胞が新しくつくられにくいのか説明できません。そこで研究者らはコルチゾールだけではなく、神経伝達物質の一種であるセロトニンか関与しているのではないかと考えたのです。セロトニンには神経細胞新生亢進作用かあるといわれます。セロトニンの分泌も運動で亢進するのですが、社会的に隔離されたり、ストレスからくるコルチゾールの増加などにより、セロトニンの受容体は減少するといわれています。このコルチゾールとセロトニンのバランスによって、独居生活ラットでは運動しても新しい神経細胞かつくられにくいのではないかというのです。社会的隔離、すなわち引きこもりが、運動によって得られるはずの神経可塑性を妨げる可能性か示唆されています。

 こうした実験結果からみても、引きこもりという、何となく実生活でも見聞きしたことのあるような現象の一部も、脳の可塑性で説明できるかもしれません。