大腿骨頸部・転子部骨折の手術療法

 

 大腿骨頸部・転子部骨折の手術療法はいまでこそ完成の域に達し、患者さんの身体機能を低下させる原因が、骨折部位や手術中のトラブルよりも、心臓疾患や脳卒中、がんなど他の合併症であることが多くなっている。しかし、いまから約七〇年前までは、大腿骨頸部骨折が生じた場合はギプス固定で治した。その結果、九五%の人たちの身体機能が悪くなったというように、さんたんたる結果が報告されている。その後、手術療法が改良され、いまから五〇年前頃には身体機能が低下した骨折例は四〇%、三〇年前には約二五%といったように改善し、最近では骨折そのものが原因となって身体機能が不良となるのは五%と少なくなっている。この五%は、どうしても完全に骨折部を整復できない、骨接合をしたが骨頭部に血液がとどかずに骨が溶けてきた、全身状態が不良で十分な麻酔がかけられずに細いワイヤ一で骨折部を固定しただけである、など原因はさまざまである。

 

 大腿骨頭に血液が流れず唾死んでしまう可能性があるのに、骨折後の骨頭を切除して人工骨頭に入れかえることをせずに、骨接合術により骨頭を残そうと努力する理由は、自分の骨は人工の骨よりすぐれているからである。関節軟骨の帽子をかぶっている人腿骨頭は、相対する骨盤のソケットの関節軟骨の助けもあり、スムーズに動いて、適度なクッションがはたらくのに加え、骨全体が少しかわるが、外力や動作を自然に受け入れることができる。それとくらべて、金属やプラスチック製の人工骨頭に入れかえた場合は、何が違和感が生じたり、人によっては軽い鈍痛を覚えることもある。また、人工骨頭を酷使しているうちに、人工骨頭の中でも大腿骨へ打ちこんでいる長い三角形の柄の部分と、柄に接する大腿骨の内腔とのおいたにゆるみが生じる、柄が大腿骨の中にめりこむ、骨頭が骨盤のソケットを深く掘ってしまう、などの好ましくない現象があらわれる。一方、足のひねり方によっては、人工骨頭が脱臼してしまう、細菌が流れついて化膿性股関節炎を生じる、などの合併症もおこりうる。このように考えた場合、もし大腿骨頭に血液がとどかないため、骨が溶けはしめた、骨折部がつながらない、などの状況にいたった場合は、つぎの手段をとるとしても、ますは自分の骨を残す治療法が選ばれることは理解しうる。