臥床による筋力低下

 

 

 高齢者は、一日の臥床で筋力が三・〇%も衰えるため、三週間も寝ていれば筋力が半分に低下することもある。もともと筋力のすぐれた若年者が筋力を半分に低下させても、走るスピードを落とすぐらいであろうが、やっと室内を歩いていたていどの高齢者が筋力を半分に低下させた場合は、立って歩くことができなくなる。このことから、高齢者の骨折にたいしては、できるだけ臥床期間を短くするような治療法、できれば三週間以内に立ち、歩けるような治療法が望ましい。たとえば、胸椎や腰椎の圧迫骨折が生じて横向きに休む以外の体位がとれない場合、強力な作用の鎮痛剤とカルシトニン製剤との併用や、胸・腰椎のコルセットでの固定などにより、発症後一~二週間で座る・立つなどの動作をさせる。そして発症後三週間もたてば立つ・歩くなどの動作を開始させて、廃用症候群の発生を防ぐことが大切である。

 

 同様に、大腿骨頸部・転子部骨折の患者さんについても、痛みの強くない症例にたいしては、手術当日までは車椅子に座ったり、シャワー入浴などを自由にさせる。そして、手術法としては、骨癒合が完成する前に金属プレートや人工骨頭の強度を頼りにして、立って歩けるようになるような治療を選ぶ。したがって、手術後五日目頃より立つ・歩くを開始させ、術後二か月以内に退院させるのが、一般的な経過となっている。

 

 最近のすすんだ高齢者医療と医療制度の確立とのおかけで、九〇歳以上の骨折患者さんにたいしても、安全・確実に手術ができるようになり、昨今では、骨折後に寝こむのは、骨折部の手術がうまくできなかったために体重をかけて立てないことよりも、骨折に合併し心がんや脳卒中など、多彩なことがらに起因していることが多い。しかしそうはいっても、大腿骨頸部骨折の患者さんのうち、身体機能を明らかに低下させる患者さんが約二分の一、寝たきりになる患者さんが約一一割いることを考えると、その原因が骨折そのものではなく合併症の方にあるとしても、早期離床への努力と工夫を、整形外科の分野でも今後とも続けなければならない。身体機能が低下して寝たきり状態になるのを防ぐためには、主治医の許可が得られしだい体を動かす必要である。