大腿骨頸部骨折の所見と対応

 

 大腿骨頸部骨折の所見と対応

 

 転倒後、立てない、臀部に痛みが走った、などの症状が見られれば、大腿骨頸部・転子部骨折を疑う必要がある。そのさい、患者さんを仰向きに寝かせてくわしく観察するだけで、骨折があるかないかがほぼ判明する。折れた側の太ももが短くなっている、太もものつけねが横に広がっている、膝や足の第一趾(母指)が外を向いている、といった三つの所見は、左右の足を比較するとよくわかり、これにより骨折の疑いは濃くなる。つづいて、疑いのある側の足の裏を骨盤に向けてこぶしでトントンとたたく、膝を握って下肢を内方向や外方向にコリコリとねじる、広がった太もものつけねをキューと押すなどで痛みが増強すれば、骨折はほぼまちがいない。これら六つのうち二~三項目以上あてはまれば、大腿骨頸部・転子部骨折が疑われるので、つぎの手はずを考えなければならない。骨折のめやすをつかむための六項目のチェックをしたり、患者さんを背負ったり、二人がかりで足を持ち上げて車に乗せるなどをこのさい、大腿骨頸部骨折のうちでも、大腿骨頭が骨の軸にたいして上向きになっている大腿骨頂部外転骨折か、下向きになっている大腿骨頚部内転骨折かが大切で、これによって治療法が大きく異なってくる。治療法といっても、令国の医療機関で同一の内容のものが一律におこなわれるのではなく少しすつ異なっているが、私の経験と方針では、大腿骨頂部外転骨折にたいしては手術をしないで安静臨床で治している。さきほど、大腿性頸部骨折は血塊形成が不良である、骨膜がない、血行が途絶する、などにより骨癒合がむすかしい、と述べた。しかし、大腿骨頂部外転骨折では、骨折綿が水平に入るため骨折端がくいこむような形になりやすいので、骨折端の間にわずかな血塊ができ、骨の内側をおおっている薄い骨膜が増殖し、骨の内側を走っている細い血管がふたたびつながり、骨頭への血液の流れが再開する確率が高い。したがって、円週間は安静を保ち、その後四週間は体重をかけないでの歩行訓練をする、といった治療がおこなわれる。骨折後に、もし手術をしないで自分の骨頭を残したまま治癒できれば、股関節の機能を維持できることが多いので、このような非手術療法を選ぶが、この治療法では、安静臥床期間を長びかせないことと、片側の下肢に荷重をがけないようにしなから立ったり歩いたりといった、高齢者にとってははずかしい訓練とが、必要になる。